ひやり・はっと事例報告(バングラデシュ報告3)
カラムディ村母子保健センターの活動は、多岐にわたっている。
95年に日本からの募金や、医療器具の寄付で始まり、05年には産婦人科病棟が増設され、近隣でも有数の病院として知られるようになった。
Community-Based Hospital(地域に根ざした病院・保健医療)として、以下の3つを柱に活動している。
① 病院として。妊婦検診、出産、一般患者の外来及び入院
② カラムディ村内の巡回検診
③ カラムディ村の外の地域でのサテライトクリニック
これらの活動は、センターの医師、看護師だけでやっているのではない。
フィールドワーク全体をリードするエクラムルという「はだしの医者」出身のヘルスワーカーと、村出身の若い女性たちが教育を受けて育った、ソーシャルワーカ達が大きな担い手となっている。
今年の報告では、病院の報告はサイド医師が行ったが、フィールドワークの報告は、女性ソーシャルワーカたちが行った。
しかも今年は、この一年間の活動が立派な冊子に英語とベンガル語で印刷されたものが作られていた。
そのほかに、詳細な報告を印刷したプリントも配布された。
それらを元に、彼女たちは堂々と自分たちの活動を報告した。
もちろん問題点も多い。
まず、予算がない、もしくは足りない。
スタッフの人件費、薬剤費、そのた維持費用は日本からの募金などで支えているが、フィールドでの活動を拡大していくための予算が圧倒的に足りない。
特に、村の周辺の地域10ヶ所あまりで月に1~2回開いているサテライトクリニックは、場所の確保が困難となってきているが、そのための建物を作るだけのお金がない。
村人の意識も問題だ。
産婦人科病棟に、残置胎盤で入院した女性がいた。サテライトクリニックで検診を受け、一月前は母子保健センターまで来て検診を受けていた。しかし、いざ出産となって、家族の反対でセンターに受診できず、自宅で出産。胎盤が分娩できず、来院、看護師が処置をしたという。
結局は、設備やスタッフの問題だけでなく、村人の意識と行動の変革をどのように促すかという問題になる。
(写真は、介護の途中で、日本の抹茶をふるまわれ、苦笑いするサイド医師とエクラムル)
いろいろな問題が話される中で、昨年の妊婦の死亡事故をどのように考えるか、の話題となった。
昨年10月、臨月で受診した妊婦が死亡するという事故があった。
詳細な事情はわからないが、このために病院は家族から強く責められた。
NGOと病院スタッフは、事実を明らかにし、家族と何度も話し合い、今後の対策を考えた。
その結果が、今回の会議で報告された。
それは、わが国で今、医療事故防止のために広がってきている”Incident Report"(ひやりはっと事例報告)だった。
毎週スタッフで集まって、事故などになりそうになった事例を報告し、大きな事故になるのを前もって防ごうという試みだ。
彼らが、本当に自分たちの足で歩み、自分たちの頭で考えていることを感じた。
情報と、ものと、金におぼれた日本の医療から、余分な「あか」を取り払って、カラムディ村に学ぶべきではないだろうか、と思った。
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