在宅ホスピスの物語
在宅ホスピスには、物語がある、といつも思う。
以前患者さんが亡くなった後、カルテを眺めていて愕然としたことがあった。
カルテには、患者さんの容態、痛みの具合、食事や便通の状態、診察所見などていねいに書かれているのだが、そこからは、私たちが毎日通った患者さんのお宅、部屋の雰囲気や家族の様子、毎日の喜びや悲しみ、苦しみなどがまったく伝わってこなかったのだ。
ベッドや布団のそばには、患者の好みの花や人形や、時には酒や帽子が置かれていたのに、それらはカルテを通して見えてこない。
そばにいる家族は、泣いたり笑ったり、悩んだり決断したり、いろんな思いを胸に秘めながら過ごしており、私たちは家族とそういった話もしているなずだが、それらはカルテを通して見ることはできない。
カルテってなんだろう。
患者、病気、身体、それに関連することだけが書かれている。
そのように訓練された来た。
でも、在宅ホスピスを進めるうちに、私たちのやっていることは、患者を人間として世話をし、その人の人生に寄り添って、その人と家族の生活を最期まで支えることに目的があるのではないか、と思うようになった。
そうすると、カルテには、本来必要なそれらの事柄が、すっぽりを抜け落ちていることに気がついた。
それから私は、カルテにできるだけ、「生活のこと、部屋のこと、家庭のこと、家族のこと」そして、「患者や家族の言葉」を記録するように心がけている。
患者、家族の人生の物語に、私自身の人生が関わる場面が、「在宅ホスピス」だ。
そこには、在宅ホスピスの物語が生まれる。
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